TOP > バックナンバー > Vol.16 No.2 > ピストンリングのシミュレーション技術
ピストンリングはピストン上方に取り付けられる切り欠きを有した円環状のしゅう動部品であり、エンジンの性能に大きな影響を及ぼす部品の一つである。ガスシールやオイルコントロール機能、そして低フリクション性能がピストンリングには要求される。これらの要求に対し、従来は実際にエンジン試験を行って各性能の確認を行ってきた。しかし近年ではエンジン開発のリードタイムを短縮させるために、数値計算によるシミュレーションで各性能を予測することが主流となっている。
リケンNPRではこのピストンリングのシミュレーションツールを自社で開発し、活用している。本報ではこのシミュレーション技術について紹介する。
ピストンリングはエンジン内部において圧縮ガスや燃焼ガスをシールするために使用される部品である。現在では、それに加えてエンジンの排ガス規制や燃費向上の課題に対応するため、オイル消費量の低減や低フリクション性能も要求される(動画1)。エンジンには様々な種類があり、また同一機種でも市場環境により使用条件が異なる。そのため各エンジンに対し、あらゆる点を考慮して最適なピストンリングの仕様を検討しなければならない。リングの各性能をシミュレーションで検討することは、実際のエンジン試験を行うことよりも効率的である。
このピストンリングのシミュレーション技術の詳細について、実機検証の結果と共に次項以降で説明する。
Movie.1 ピストンリングの役割と周辺の呼称
エンジン実働時においてピストンリングはリング溝内で数十μmの上下動をするが、これはリング側面のガスシールに影響する。その結果、クランクケース内に流入するブローバイ量に大きく影響する。従ってブローバイ量を予測する上ではリング挙動の予測精度が重要となる。動画2にコンプレッションリングの挙動とエンジンのブローバイ量における実測結果とシミュレーション結果を示す。リング自身の慣性力と上下側面に作用するガス圧力、そしてリング外周のフリクションによってリング挙動はある程度定まるが、シミュレーション結果は実際のリング挙動を再現できている。またブローバイ量においても、シミュレーションで再現できていると言える。
Movie.2 ピストンリングの挙動とブローバイ量のシミュレーション結果
エンジンの燃料消費量に影響するピストンリング外周のフリクションは低い方がよい。リング自身の張力、外周の形状や表面処理、その粗さ等がフリクションに影響を及ぼす。これらの最適な設計をする上で、本シミュレーションや次に示す計測技術は有効な手法である。モータリングによるフリクション測定機の実測結果とシミュレーション結果を比較したものを動画3に示す。各回転数において両者は良い一致を示していることが分かる。これよりシミュレーションによるフリクション予測精度が高いこと、また測定機も理論に基づいたアウトプットを示すと言える。
Movie.3 ピストンリング外周におけるフリクションのシミュレーション結果
排ガス規制の点からエンジンのオイル消費量の低減は必須である。このオイル消費の多くはオイル上がりによるものであり、ピストンリングが果たす役割は非常に大きい。一般的にはオイル消費のメカニズムに対する実機検証は困難とされており、そのシミュレーションもまた困難とされている。しかし、リケンNPRではシリンダ内の可視化による油膜挙動の観察や、CFDによるオイルの流体解析等の結果を基に、オイル消費量を簡易に予測できるシミュレーションモデルを独自に構築した。動画4にその結果を示す。詳細な検証は現在も継続中であるが、エンジンのオイル消費に対するピストンリング仕様の検討に必要な予測精度は有していると考えている。
Movie.4 オイル消費量のシミュレーション結果と計算モデル構築のための解析手法
ピストンリングに求められる機能や性能については自社開発したシミュレーションで予測可能な点もあり、今回紹介したシミュレーションツールは実際のエンジン試験の工数削減に貢献している。そして社内で保有している多くの知見や解析結果を活用し、シミュレーション結果の検証やモデル改良を継続的に行っている。これによりシミュレーション技術は更に向上すると考えており、ピストンリングの最適仕様の検討をより迅速に行うことを目指している。
今回は紙面の都合上、シミュレーションのモデルや実機検証の詳細な説明は割愛させて頂いた。参考文献にそれらが記載されているので併せて参照頂きたい。
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