TOP > バックナンバー > Vol.16 No.2 > エンジンを支える過給機の技術と最新動向
過給機は1905年にスイス人A.ビュッヒによって発明され、第二次世界大戦中にはB29などの航空機エンジンへのターボチャージャ搭載によって、空気密度が低い高高度飛行を可能にする技術としてその実力が広く認知されるようになった。以降、過給機は乗用車・商用車・船舶など多様なエンジンに搭載され、動力性能向上、燃費改善、排ガス浄化といった多方面で重要な役割を果たしている。IHIは1954年からターボチャージャの開発を開始し、グローバル市場において多様な形式の過給機を提供してきた結果、2023年には累計販売台数1億台を達成している。本稿では、過給機がエンジン性能に果たす技術的役割と、近年の最新技術動向について紹介する。
過給機はエンジンの出力向上および燃費改善に寄与する重要な装置であり、駆動方式によりターボチャージャとスーパーチャージャに大別される。IHIでは両者を生産しているが、本稿では最も普及し開発の盛んなターボチャージャ(以下、ターボ)に焦点を当てる。
ターボは、排気ガスのエネルギーを利用してコンプレッサを駆動し、エンジンにより多く空気を供給することで出力を増大させる装置である(図1)。主にタービン、コンプレッサ、これらを同軸で繋ぐベアリングから構成され(図2)、エンジン重量のわずか2~3%程度の軽量性でありながら、エンジン出力を30~100%以上向上させることが可能である。加えて、排気エネルギーの回収およびポンピングロスの低減も相乗し、燃料消費率の向上にも貢献する。
ターボの主要構成部品とその代表材料・製造方法を(表1)に示す。自由曲面部品が多いため鋳造部品が多用されているのが特徴といえる。現在主流のターボは大きく以下2種類の基本構造があり、(図4)のような作動領域の違いが挙げられる。なお、触媒早期暖機などの要求からこれらを組合せた仕様も存在する。
・ ウェストゲート(以下、W/G)型 : タービンが過回転するのを防ぐため排気ガスを逃がす排気弁を搭載(図3-a)
・ VGS(Variable Geometry System)型 : 排気ガス量に対して加速性能を調整するノズルベーンを搭載(図3-b)
ガソリンエンジン用ターボは耐高温設計が重要であり、ノッキング対策として直接噴射との組み合わせが有効である。
一方、ディーゼルエンジン用ターボは高圧力比により熱効率最大化に貢献し、これによるリーン燃焼がPM(粒子状物質、煤)低減、さらにEGR(排気ガス還流)と組合せることでNOx(窒素酸化物)低減にも寄与することから、現在のディーゼルエンジンにターボは不可欠な部品となっている。
| 部品名称 | 材質 | 工法 | |
|---|---|---|---|
| ① | タービンハウジング | 鋳鉄/鋳鋼 | 鋳造+加工 |
| ② | タービンホイール/タービン軸 | 耐熱Ni合金/CrMo鋼 | 精密鋳造+電子ビーム溶接 or 摩擦溶接+加工 |
| ③ | ベアリングハウジング | 鋳鉄(FC) | 重力鋳造+加工 |
| ④ | ジャーナルベアリング | 銅合金 | 加工 |
| ⑤ | シールプレート/オイルディフレクタ | 圧延工 | 鍛造 or プレス+加工 |
| ⑥ | コンプレッサハウジング | アルミ合金 | 重力鋳造 or ダイカスト+加工 |
| ⑦ | コンプレッサホイール | アルミ合金 | 鍛造 or 精密鋳造+加工 |
昨今のカーボンニュートラルに向けた取り組みとして、以下のような動向が増えており、IHIとしても幅広く新規開発/生産を進めている。
現在の内燃機関における燃料多様化に伴い、過給機技術の将来展望も多様な方向性が見込まれる。
第一に、既存内燃機関の更なる効率向上が重要な課題であり、電動アシストターボ(Electric motor Assisted Turbo、以下EAT)はその一端を担う技術である。EATは過渡時のターボ回転をモータによりアシストすることでターボラグを大幅に低減し、低回転域から安定した過給と排気エネルギーの回生を可能とする(図8)。ミラーサイクルとの組み合わせにより、VGSターボを上回る動力性能および燃費改善効果が期待される。
第二に、代替燃料の活用が挙げられる。IHIは水素やバイオ燃料対応ターボの開発を進めており、特に水素エンジン用ターボは複数のOEMに提供し、水素燃料特有の技術課題を実車でも評価・検証している(表2、図9)。今後も様々な代替燃料への可能性を広げていくことが重要である。
近年まで、内燃機関の新しい開発は停止され、電動化が急速に進むと予想されていた。しかし、欧州では2035年以降のエンジン車新車販売禁止方針の見直しが進展しつつあり、HEV、PHEV、水素エンジンなど、多様な内燃機関技術の活用が今後も継続する可能性が示唆されている。現状、電気自動車のみですべてのモビリティ要求に十分に対応することは困難であり、内燃機関および過給技術によって補完すべき技術的課題が依然として存在する。IHIは、年々厳格化する環境規制に対応しつつ、内燃機関と過給機の高度化による技術的貢献を通じて、持続可能なモビリティ社会の実現に寄与していく。
コメントを書く